大判例

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神戸地方裁判所 昭和23年(ワ)552号 判決

原告 金田末夫

被告 山尾民三郎 外一名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告等は各自原告に対し金五十二万千六百円およびこれに対する昭和二十三年十一月二日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支拂え、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決ならびに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、請求の原因として「被告民三郎は、全然生ゴムを賣渡す意思がないのにかかわらず昭和二十三年十月二十九日原告に対し、眞実正規の配給割当品でない(所謂闇の品である)生ゴム一噸を金九十万円で賣却するように申向けて、原告をして同被告には眞にそのような現品を引渡す意思と用意があるものと誤信させてその申込を應諾させ翌三十日その賣買契約上の手附金として金一万円、翌月二日同賣買代金の内入金として五十五万円を交付させてこれを騙取し、原告に対し合計金五十六万円の損害を被らせ、被告吉治は、被告民三郎の長男であるが、昭和二十三年十一月七日、原告との間に、被告民三郎が原告に対して負担する右の損害賠償債務につき被告民三郎と共に賠償の責を負い損害金全額の支拂をなす旨の所謂重疊的債務引受契約を締結した。その後、原告は、被告民三郎から金三万八千四百円の賠償を受けたから、これを控除し、被告両名に対し、右賠償金五十二万一千六百円およびこれに対する不法行爲の日である昭和二十三年十一月二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支拂を求めるため本訴に及んだ」と述べ、被告吉治の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、主文通りの判決を求め、答弁として「原告主張事実中被告民三郎が原告の主張の日、その主張のような賣買契約上の手附金や代金としてその主張の各金員の交付を受けたこと、被告吉治が被告民三郎の長男であつて、原告主張のような債務引受をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。即ち被告民三郎は清水晴夫と原告間の生ゴム賣買につき仲介をなし、原告から受取つた金員も清水晴夫に取つぎ引渡したのに過ぎず、原告主張のようにそれを詐取したのではない。このように被告民三郎に不法行爲上の債務がない以上、被告吉治のなした債務の引受契約も、これと同一内容の債務を負担することを目的としてなされたのであるから、被告吉治においても何等債務を負担しない」と述べ、抗弁として「かりに、被告民三郎に原告主張のような損害賠償の債務があるとしても被告吉治が、原告その他十二、三人の者から殴打暴行を受けた上、兇器を持つた四、五人の者の包囲をうけた。その内で親の民三郎が犯した不法行爲による債務を弁済せよと責められ、もしこれに應じなければ、どんな危害をうけるかもしれず命の危險さえ感じた結果原告主張のような債務引受の意思表示をなしたのであるから、本訴においてこの意思表示を取消す。從つて、被告吉治は原告本訴請求に應じられない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が被告民三郎に対し、昭和二十三年十月三十日に原告主張のような賣買契約上の手附金として金一万円、翌月二日に同契約上の代金として金五十万円を交付したことは当事者間に爭がない。しかし生ゴムは指定生産資材に該当し、その譲渡引受は、主務官廳の発行する割当証明書によつてのみなされ、これに反する行爲は刑罰を以て禁止されていることは、臨時物資需給調整法、指定生産物資割当規則等の諸規定によつて明らかであり、当時生ゴムが指定生産資材中でも特に重要な物資であつて嚴重な統制を受け、これを破ることは單なる統制経済違反行爲に止らず、道徳的にも強く非難さるべき行爲であることが、いやしくもこれを取引しようとする程の者には一般に認識されていたことは顕著な事実であるから、原告がかゝる認識の下に叙上のような賣買契約を結び、かつ前記手附金や代金を被告民三郎に交付したであろうことは容易に推認し得られるところである。さすれば原告は民法第七百八條に所謂不法な原因に基き右金員を交付したものと解するのが相当である。なるほど原告は詐欺による損害の賠償を求めるもので不当利得の返還を請求するものでないけれども、右金員の交付者たる原告の主観に就いて見れば不法な目的のために金員を交付した結果の損害の回復を自らその不法の事実を主張して求めるものである。しからば実質的に不当利得の場合と何等異なるところはなく、かゝる被害者もまた法の保護に値しないことは、民法第七百八條の精神から見て自明であり、そのため相手方に不当な利得を留保させる結果が起るのは、当事者間の衡平を目的とした不当利得に関する民法の規定よりも更に高度な民法第九十條と同様な公益的要請から規定された右法條適用の反射的結果であつて、相手方にも非難さるべき不法ありとしてそれとこれとを比較考量して衡平を期するというが如き理由によつて同條の適用を制限せんとする考え方は右法條の精神に副う解釈ではない(明治三十六年十二月二十二日および同三十九年六月一日大審院刑事判決参照)しからば、原告の被告民三郎に対する右金員の交付は、それが被告民三郎の詐欺行爲によるものであるか否かを判断するまでもなく不法原因給付に外ならないから、それによつて起つた損害の賠償は請求するに由ないものというべきである。次に被告吉治が原告主張のとほり、債務引受をしたことは当事者間に爭のないところであるが、その引受は被告民三郎の債務の存在を前提としてそれと同一内容を負担することを目的とするものであるから原告において被告民三郎に対し法律上の保護に値する債権が存しない以上被告吉治に対してもまた右引受を理由にその債務の履行を求め得ないのは当然であつて、原告の被告両名に対する本訴請求は共に失当であるからいずれもこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)

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